活薬のひと

ワークショップが与えてくれるもの

熊本大学大学院生命科学研究部 教授
入江徹美 先生

はじめに

 “ワークショップとは、一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり、創り出したりする学びと創造のスタイル、すなわち「参加体験型グループ学習」である。”(日本医学教育学会FD小委員会編「医療プロフェッショナル ワークショップガイド」2008年発行)。ワークショップには、“研修”や“課題解決”の要素が含まれます。薬学教育の改革には、課題が山積みでした。これら課題を短期間で効率的に解決する方策として、ワークショップは活用されてきたように思います。2012年3月には6年制教育課程を修了した一期生が卒業し、薬学4年制課程卒業生の薬剤師国家試験受験資格に関する経過措置が2017年度入学生までで終わり、新たな薬学教育制度の枠組みは整ったといえます。その間、ワークショップは薬学教育改革にどのような影響を与え、将来にわたってどのような役割を果たしていくことが望ましいのかを、改めて考えてみるのは良いタイミングではないかと思います。
 

私にとってのワークショップ

 私は、2001年7月に東京で開催されました「第1回全国薬学教育者ワークショップ」に、右も左もわからない状態で参加し、まさに“目から鱗”の体験をしました。ワークショップで学んだ教育に対する考え方や技法は、教育に関する悩みの多くの部分を解決してくれました。それを契機に、種々のワークショップのタスクフォースとして、多くの時間を過ごすことになりました。
 2004年1月に「第9回全国薬学教育者ワークショップ」が九州・山口地区で初めて開催されました。今のようにワークショップが全国規模で展開する前で、地方での取り組みはずいぶん遅れていました。九州・山口地区でもワークショップを立ち上げようと、ベテラン・タスクフォースの皆様が全国から集まって下さいました(写真)。その後、全国各地でワークショップ・タスクフォースの輪が確実に広がっていく様を、リアルタイムで体感できたことは、私にとって僥倖でした。ワークショップに関わっていなければ、一生涯お目にかかることがなかった、個性豊かな多くの方々との出会いや思い出は私の宝物です。
 

ワークショップの果たしてきた役割

 先達の先生方は、まさに命を磨り減らしながら精根尽くして、薬学教育の改革に取り組まれ、新たな薬学教育制度の礎を築く多大な貢献をされました。6年制薬学教育の制度改革におけるマスタープランの策定から、そのアクションプランの実施に至る一連の経緯の中で、関係者全員が一堂に会し、効果的な討論や作業を行うプラットフォームとして、ワークショップという手法は大いに機能したと思います。2001年にスタートしたワークショップは、大学教員を対象に行われていましたが、6年制薬学教育の議論が煮詰まる中で、学生の実務実習を指導してくださる薬局・病院薬剤師の方々と教育に関する共通認識を深める場としてのワークショップを捉え、2003年から医療現場の薬剤師の方々が参加していただくようになりました。2006年度から6年制がスタートするに当たり、指導薬剤師を数多く養成することが急務となり、「認定実務実習指導薬剤師制度」が立ち上がり、ワークショップは認定要件の一つとなりました。現在、「認定実務実習指導薬剤師のためのワークショップ」(薬学教育協議会、各地区病院・薬局実務実習調整機構)に加えて、「全国学生ワークショップ」(日本薬学会)、「若手薬学教育者のためのアドバンストワークショップ」(日本薬学会)、「薬学教育指導者のためのワークショップ」(文部科学省)などが定常的に行われています。
 

薬学教育の伸展に向けて

 私は、2007年12月に「第34回医学教育者のためのワークショップ」に参加する機会を得ました。医学教育者の中に、歯学と薬学から1名ずつ参加者として受け入れていただきました。富士山の裾野に位置する研修所に4泊5日缶詰状態で実施されたワークショップは、私にとって新鮮な驚きの連続でした。さらに、医学と薬学の教育者の交流の大切さを痛感しました。翌年3月に昭和大学北部病院にて開催された「医療人養成教育への貢献をめざして〜薬学と医学の教育交流の将来を考える〜」での大切な約束“医学・薬学の合同ワークショップの継続的な開催”は実現していませんが、「医学教育者のためのワークショップ」には薬学関係者が毎年1名ずつ継続的に参加し、日本薬学教育学会学会誌「薬学教育」に印象記が掲載されています。
 グローバルな視点から、日本の薬学教育改革や薬学教育モデル・コアカリキュラムの内容を点検し続けることは必要に思います。例えば、Asian Association of Schools of Pharmacy (AASP)では、“アジア各国のコアカリキュラムと学科の基準をハーモナイズする”ことを使命として掲げています。今年7月に韓国Aju大学薬学部で開催された第9回AASPでは、アジア・オセアニア・米国の薬学教育が継続的な進化を遂げている様子が紹介されました。しかし、各国の社会情勢や医療状況を反映して、薬剤師に対する社会のニーズは異なることから、コアカリキュラムを協調させることは難しいように思います。一方で、コアカリキュラムの大本にある“ミッション”や“ビジョン”を、アジア各国で共有することは可能なように感じます。
 

おわりに

 多くの薬学関係者の献身的な努力で、薬学教育6年制の骨格はできました。これからはその中身をどのように充実させていくかが課題です。若い世代の方々が、日本薬学教育学会を立ち上げて、サイエンスとしての“薬学教育学”を確立しようとしています。今、学習成果基盤型学習の理念のもとに、薬学関係者が“同床異夢”から脱却して“異榻同夢”に向けた議論を行えば、より実り多い成果が得られるものと思います。その有効な手段として、ワークショップは威力を発揮するものと期待します。
 
 
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第9回全国薬学教育者ワークショップ参加者(2004年1月10日 熊本大学薬学部にて)