活薬のひと

私立薬科大学学長鼎談 薬学の進むべき道・薬学教育の進むべき道

神戸薬科大学学長 宮田興子 先生、昭和薬科大学学長 山本恵子 先生、
星薬科大学学長 中西友子 先生

今回の「活薬のひと」では、私立薬科大学3校の
女性学長にお集まりいただき、
薬学の進むべき道・薬学教育の進むべき道
というテーマでお話をお聞かせいただきました。

上田先生

まず最初の話題です。
IoT や AI 人工知能が発展している中で社会が大きく変化しようとしています。薬剤師の仕事もそれに伴って変わっていくと思われます。その変革期において薬剤師の役割というのはどうあるべきなのか、またどう変わっていくべきなのかというのをお聞かせいただけますか。

山本先生

今までと同じでは駄目だと思います。AIとか IoTを賢く使いこなしていくことがまずは大事で、今まで薬剤師さんがやっていたことを補助してもらえるわけですから、機械ができることは機械にやってもらっていいんじゃないかと思います。今後は、薬剤師は大学で学んだことをもっと活かせるようになるのではないかと思います。特に6年制になってからすごく勉強していますし、幅広く学習し、実務実習にも行って、頑張っていると思うんです。けれども、卒業した後の学生さんに聞くと、「調剤とか監査に時間がかかって、勉強したことを発揮する時間がなかなかない」と言うのですが、今こそチャンス!AI とか IoT が発達しているということは薬剤師の本来の仕事ができるようになるチャンスなのではないかと思います。

中西先生

IoT とか AI というのは非常に大切な、重要な技術だと思います。いろいろなネットワークにもつながりますし、大きなデータベースを活用して、社会を形成する個人個人の人への最適解を求めることができるという、こんなパワフルなツールはないと思います。ぜひ、この新しい技術を薬剤師の方にはどんどん取り入れていって欲しいと思っています。 ただ、考えてみますと、やはり最後は人と人が向き合うものだと思います。つまり薬剤師の方は一人一人と向き合っているわけですから、人間性ということはこれからますます問われていくと思います。

宮田先生

私も両先生がおっしゃっておられるように、やはり対物業務から対人業務に、移行することが望まれているので、そのようにするいいチャンスだと思っています。現在、薬剤師は対人業務および対物業務の両方を仕事としているので、薬剤師のより高度な業務面がなかなか前面に出てこないけれども、対物業務の方は AI や IoTに協力していただくと、対人業務を人と寄り添って、その人その人に適した本当の意味でのテーラーメイド型の薬物治療をしていくことが可能になると思います。そのようにできるよう大学では教えていく必要があると思います。

上田先生

社会が求めている薬剤師というのはどうあるべきなんでしょうか。

宮田先生

もし、薬局に来られた方に「薬剤師はどんな仕事をしていますか?」とインタビューしたら、「錠剤を数えて袋に入れてくれます」というような返事が返ってくると思います。おそらく、そういうところしか見えていないと思います。したがって、「薬剤師はこのようなこともできます」ということを、もっと社会にアピールしていかなければならないと思います。もっと医師に協力してよりきめ細かい薬物治療を薬剤師が行っている場面に患者さんが遭遇すれば、薬剤師ってすごいこともできるんだなって思ってくださる気がします。しかしながら、大半が薬を袋に入れる作業、見かけではそれしかないと思います。それをとにかく打ち破ることが大切だと思います。

上田先生

薬剤師の本来の仕事が一般の方に分かっていただけてないということですね。

中西先生

私はこれからの高齢化社会では、薬の役割がもっともっと変わってくると思います。病院では医師だけでなく薬剤師の面談が必要など色々言われていますけれども、薬は病気を治すだけではなく、予病や健康維持など、もっと健康寿命を伸ばすというところに着目されてくると思います。世の中は一人一人個性のある、つまり何がしか違ったり特徴が異なる方がおられるので、今おっしゃったようにテーラーメイドの薬剤師の活躍場所はもっとあると思います。薬剤師は一般の人と接する機会が多いだけに、健康というキーワードをもとにいかに余命や健康寿命を延ばすかということを考えますと、もっと私たちの身近な存在になると思います。さらに仕事も拡大するのではないかと思います。そして薬剤師という人はもっと必要と見なされるべきだと思います。

山本先生

世の中のイメージとして薬剤師って、既に確立されたものを忠実に守って間違いのないように、クリエイティブな仕事をするというよりは間違いのないようにして当然と言うか、それが使命だ、みたいな感じがあると思うんですけど、世の中だんだん変わってきて、対人業務が大事ということになりましたので、薬剤師の仕事は益々重要になってきていると思うんですね。しかし、対人業務が大事と言いながら、患者さんで薬剤師を頼ってくる方は少ないと思うんですよ。お医者さんちょっと敷居が高いけれど、じゃあ次に頼るのは誰かと言うと看護師さんだったりして、薬剤師さんにぜひ相談したいという方が今は少ないと思うんですね。さっきも上田先生がおっしゃったように薬剤師の仕事が一般に知られてない。薬剤師はすごく豊富な知識を持っているんですけど、訓練をしていないせいか、自分たちから積極的に出て行けないというところがあって、損しているなって思うんですよ。薬剤師は処方出来ないですから、医師に処方提案できるような高度な薬物治療を担える薬剤師の養成がとても大事。そうすることによって国もより良い医療を提供できます。例えば、高額な薬の経済的な問題やポリファーマシーの問題は、薬剤師がかかわることで解決の方向に向かうのではないかと思っています。

宮田先生

薬剤師も勉強熱心で週末の研修会には多数の方が参加され、勉強されていますので、もっと自信を持って「こういうこともできます、あれもできます」とどんどんアピールしていくことも必要かと。そうすると薬剤師過剰であるとは言われないし、患者さんが必要とする薬剤師を沢山採用しないと病院の経営が成り立たない感じになれば理想だなぁと思います。あそこの病院にはあの薬剤師さんがおられるからあっちに入院するわ、というようになれば最高だと思います。理想かもしれませんが、それを1つの目的に掲げてそれに近づけていけたらと思います。

上田先生

ありがとうございました。
薬剤師は薬に関する新たな仕事職能を広げていけたらいいんじゃないかなというお話でしたね。その職能を広げられるような意識の高い薬剤師を養成するために、各大学で取り組まれていることや、どんなことに取り組んで行ったらいいかとかをお聞かせください。

中西先生

教育の面ですね。単なる今までの延長ではなく新しい技術や考え方をどんどん取り入れて、教育に反映すべきだと思っています。また、これほど地域と密着している教育はないと思います。例えば大学では生涯教育を、薬剤師になられて日常社会で活躍されている方をもう1度教育する場として考えていて、それはとても大切なことだと思います。それからその他に、一般の人とどういう風に接して、どういう風に一人ひとりに向き合うかということについては、やはり人間性が大切です。その意味では薬学部薬学科といえども教養課程がとても大切です。例えば倫理とか、どんなふうに環境を考えればいいかとか、あと哲学の問題ですよね。自分はどういう風に生きて、どういう風に患者さんに接するかということがとても大切なのです。幸い星薬科大学には教育課程の哲学の先生をプロパーで雇用しているのでお話を伺いますと、ああ、こういう先生を雇っている素晴らしい大学だと感じます。人間性というものは、専門教育以外であってもきちんと押さえなくてはいけないと思います。

山本先生

薬剤師も常に自己啓発しながら学んでいくことが大事で、それは大学としても関わっていかなければならない大事なことと思っています。大学では、医師に最新の情報を提供するとともに、作用機序も考慮しながら最適な医薬を提案し、そこには経済的な面も考える、そういう高度な薬物治療を提案できる薬剤師を育てようと思っていて、アカデミックディテーリングを教育に取り入れたいですねという話はあります。それから本学では、いろんなところと連携を結んでいて、一つは成育医療研究センターという、周産期と小児の日本のトップクラスの施設と学術交流協定を結びまして、周産期・小児分野に強い人材育成をしようということで始めているところです。あとは医学部の方、看護学部の方、等々と、多職種連携をやっていかなければならないので、それには熱心に取り組んでいます。みんな同じ医療を目指しているのですが、他学部が違う視点で勉強していることが分かって、すごく刺激になるようですね。それから生涯教育を町田市薬剤師会と一緒にやろうとか、そういうことをやっている状況です。最終的には患者さんのところに出て行って仕事をするわけですので、クローズドな、大学の中でだけの教育ではなくて、外部機関などいろんなところと関わり合いをもちながら、教育することを始めたところです。

宮田先生

今、山本先生が地域連携と多職種連携についてお話しされたので、その辺の話題から入りますと、本学は全国に先駆けて1975年から卒後研修を行っており、この研修会に学部学生が参加して、薬剤師の先生と一緒にSGD(スモールグループディスカッション)を行うという教育を数年前から行っています。それから多職種連携は6年制が始まった当時から神戸大学と行っております。具体的な科目としましては「初期体験臨床実習」および「IPW(多職種間協働・Interprofessional Work)演習」があり、医師や看護師、理学療法士などを目指す神戸大学医学部の学生と共に医療現場を体験し、相互理解を深めながら、学生の視点で「チーム医療」の考え方を学んでいます。

山本先生

改訂コアカリで必須になったんですよね。

宮田先生

そうですね。学生の時から、将来いろんな職種の医療人になる方と話をして、自分たちの専門性を早めに意識して欲しいなと思うのですけれど、なかなか思うようには学生は意識してくれません。少し話は変わるのですが、近隣の学長の先生とお話した時に感じたのですけれど、薬学部は最後に国家試験があるので、知識を詰め込むのにすごく時間を使っている気がします。国家試験がないか、あるいはあってもクリアするのにさほど困難でなければ、もっと大学らしい教育をされているような気がします。思考力の強化、自由で積極的に挑戦させることもしておられます。残念ながら6年制の薬学は、そのようなことに時間をとれないのが現状かと思います。中西先生は他学部の先生でおられましたので、そのあたりもお尋ねしたいと思っています。6年制の薬学はちょっと知識を詰め込むところに教育の重きを置きすぎていて、思考力に磨きをかけるもっと大学らしい教育もあるはずだと思うのですが。

中西先生

本学は6年制と4年2年3年制の両方があるのですが、感覚で言いますとやはり国家試験の重圧が非常に大きく、こちら(6年制)の学生はみんな国家試験に向けてものすごく真面目に勉強しており、今まで通りの4年制+2・3年ですともう少し時間がある感を受けます。その分、視野も少し広いのではないかと推察します。それが先生のおっしゃった、他の人と話した時にも発揮しますし、よく言われるのは就職の面接で、ディベートが苦手と言うか、もう少し訓練が必要ではないか、という感があります。能力ではなく、知識の蓄積と考える時間が、6年制の方にあってもいいのではないかと思います。
私たちあまり人文科学について知らないと思います。私はこの10年以上文学部の人たちが主体の集まりの事務局をさせて頂いていて、いかに論理的に文系の方が考えているか、私たち追いつけない位だと思っています。いろいろな人のことも同時に考えられているので、素晴らしい分野だと思っています。特に福島の原発事故の後は、彼らなしには現地の多くの人たちは多分立ち直ることができなかったのではないかと思うほどです。哲学だけではなく、文系の人との話し合いは教えられることが多く、特に福島事故を通してとても考えさせられました。

宮田先生

今病院のチャプレン(聖職者)をしている卒業生がいます。その卒業生が私に話してくれたことがあります。最終的に人を助けられるのは薬ではなく、精神的なものだということです。彼女は時々新聞にも記事を載せていますが、このような分野も薬学教育において充実させる必要があるのかもしれませんね。少し観点が違いますが、気持ちの持ち方で病気も治ることがあるのでしょうから。

中西先生

治っていくのですよね。

山本先生

本学にも文系出身の先生がいて、私とは違う視点で意見を言ってくれるのですごく助かっています。地域連携やるにも薬学の先生は、視野が狭くて、どうやって進めていいかよく分からなかったり、細かいことはわかるんですけど最初のとっかかりとか、何が大事かとか、どこにアプローチしたらいいかとかいうのがなかなか難しいんですけれど、その先生はすごく軽やかに色んな所にアプローチもできるし、そうじゃなくてこうなんじゃないですか、とか言ってくれます。他学部とか、あるいは文系の先生の大事さというのがよくわかる。薬学の単科大学とはいえ、やっぱり教養の勉強も大事ですし、そういう先生がいてくれることによって、いろんな風穴を空けてくれて、すごく助かっています。実際そういう方はもう少したくさん来ていただいた方がいいのかなと思っています。薬学の中で育っていると視野が狭くなりがちな中で、日本全体、人全体、世界全体、広い視野で物事を考えていくことが、大事だと思っています。

宮田先生

単科大学でも社会基礎力を身につけるための様々な分野の先生方を採用して、学生さんに教授していただくことが理想ですが、そのような余裕はなかなかないですけれども...。このような場合に、近隣の大学と連携して助け合うことが大切になってくる気がします。

上田先生

人間性を作るという意味でもそういう先生は必要ですよね。
ありがとうございました。先生方は皆さまバリバリ研究をされてきた先生ですので、学長になられてから、私立大学6年制薬学部の研究力が落ちているのかなと感じるところも多々あると思います。そのあたりについてどういう風にお考えかというのをお聞かせいただきたいなと思います。

中西先生

大学というものは教育と研究の両方がとても大切で、どちらがどうだとは言えないのですが、社会一般ではどうも研究面にすごく焦点があてられがちなのです。けれども、レベルの高い研究をどんどん発信していくということが、もう片方の教育にとってとても大切だと思います。そのためにはグローバルな研究をやらなくてはならないですし、あちこちと手を組んで、特に質の高い研究をどんどん発信していくということが、ひとつの、極めて重要なことだと思います。6年制といっても卒業研究があるわけですし、研究はあまり長くはできなくても、それに触れて、自分で物事を考えて、自分で計画を立てて実験ができる、そういう人を育てなくてはいけないと思っています。また素晴らしい研究をされている方もおられますので、サポートしていきたいと思っています。

山本先生

教育と研究の両方が大切ということに全く同感で。薬学部に来てから長くなり、特に学長になって2年目ということもあって、今は教育のことを重視しています。6年制教育の一環として、研究はコアカリの中に入っていますので、卒業研究はすごく大事だと思うんですね。コアカリの中には、薬剤師としてやっていく為にも、課題を自ら見つけてその課題を解決していくっていう項目があると思うんですけれども、そういうことをやるためには卒業研究が最も良い手段だと思っていて。どんな教育をしてどんな講義をするよりも、それは自分が自ら体験して経験することなので最も良い方法だと思っています。ですので、本学は卒業研究を重視しているんですけれども、それは続けていくべきことです。
私は古い薬学部で育ってきて、あまり薬剤師の事も知らず、薬も、作るところまで、あるいはどういう作用で効くか、とかいうところまではやっているんですけれど、患者さんまでは見ていなかったと言うか、全然そこまで意識していなかったんです。けれど、今の6年制の学生さんは実務実習に行っているおかげで、あるいは行く前からそういう教育を受けているためか、特に実務実習に行った後は、研究の先には患者さんがいると常に思っているんですね。そこがすごく違うところで、私は「良い研究をしたい」ところで終わってしまうけれど、学生さんの視線の先には患者さんとか、一般の方がいて、そういう方により良い医療とか、予防を提供したいというところがある。
6年制だから研究できないというのはなくて、私たちは昔のままを押し付けようとするからできない、私たちが受けた教育・やってきた研究をそのままやらせようとするからできないのだと考えます。現在の学生の持っているいいところをもっと活かす、つまり、彼らの話を聞いて、吸収して、一緒にやっていけば研究はできるし、私たちも古いところにとどまらずに先に進めるので、そういうポジティブに物事を考えた方がいいと私は思っていて。実際それをある程度実行できたかなーと自分では思っています。6年制になったから研究できないとか、時間がないとか、みんな薬剤師を目指しているから研究には興味がないとか言いますが、私達が適切に対応していないからそう思えてしまうのであって、彼らがもともと研究に興味がないとかやる気がないというわけではない。と、私は強く思います。

宮田先生

先生方がおっしゃいましたように、私も研究は大学教育に不可欠だと思っているので、教育と研究どちらにも力を入れてやるべきだと思っています。大学での教育は研究があっての教育なので、そういう意味でも先生方には頑張って研究はしていただきたいと思っています。本学では研究費の他に、学長裁量経費で共同研究というものを立ち上げて、金銭的には僅かですが、神戸大学の医学部の先生方にも参加していただき、共同研究を積極的に行っていただいております。研究室同士でお互いの研究内容で話し合う機会が出てきて、大学内に活気が出てきた気がします。
さらに、大学院も活性化したいと思っています。やはり研究者も育てたいという希望がありまして、大学院の主幹の先生に全ての学年に大学院の宣伝をしていただいています。そうすると、低学年から研究に興味を示す学生もちらほらでてきました。たとえ1年生でも大学生らしく、主体的に自らやりたいなって思うことをやらせてあげたいと思います。学生の積極的な思いが研究に繋がって、結果的に研究ができる薬剤師に成長してくれればと願っています。小さい大学ですけれど、入学した学生にはいろんな夢を持たせたいと思います。入学当時、大半の学生さんは将来病院薬剤師になると思っています。先生方もおっしゃっておられましたように実務実習で患者さんを知った上で、例えば企業での創薬を目指しても、理学部や工学部から企業に就職した学生とは違う視点で創薬に関わることができると思います。
そういう意味でも薬学のこの広い特徴的な学問を学修し、卒業した学生が色々な領域で活躍することを願っています。

山本先生

実際1年生で入ってくる時、研究したい人、将来創薬やりたい方って比較的多いですよね。
面接すると多いんですよ、10人面接すると3人くらいいますよ、研究やりたいっていう学生。でも上に行くにしたがってどんどんどんどん減って、最後は1とか0とか。それは、教育現場で、薬剤師薬剤師って言いすぎるんだと思います。疲れちゃうんですよね、学生が。

宮田先生

6年制教育が始まって様々なことが改革されていますが、このようなときには、中西先生のように他学部から来られた先生方のご意見は大変貴重だと思っています。薬学部の中にいる我々には見えないことも外部からこられました先生方には今の6年制薬学部の長所、短所がみえ、より充実した薬学部にするためにどんどんご意見を言っていただきたいと思います。

山本先生

そうですね、外から言われると「やっぱりそうなんだ」ってなる。そういうのって大事。

中西先生

薬学の先生方は頑張っていると思います。授業もやりつつ自分の研究も立派にやっているので、どんどんサポートして研究を外に出していけば、学生もひとりでに目が向きますよね、先生の姿を見て。本学は3年生から研究室に配属されるのですが、4年生を3年生に変更して、良かったとおっしゃる先生は、研究をきちんと教える時間ができたことを評価しています。そのくらい教育に熱心な先生方がおられるところに感じ入りました。今までいたところは、どちらかといいますと、研究が最も大切だと思う人が多かったのですが、こちらに来たら、研究もそうですけど教育も考えつつ研究をするという人が多く、これはすごい伝統だと思います。

上田先生

今後どういう風に薬学教育が進んで行かないといけないでしょうか。

山本先生

少子化の中で、薬剤師過剰時代が来るとか、既に過剰だとか言われている中で、薬学部は増えていくのはなぜだろうというのがとても素朴な疑問です。このことをどこに言ったらいいのか分かりませんが、まだ増やしたいと言っているのは、どういう方々で、どういう考えに基づいているのかを、まずは聴いてみたいと思います。 薬剤師はこういうこともやってください・やっていいですよ・こういう職域がありますよ、っていうことを提示してもらわないと、なかなか納得できづらいです。後ろ向きな発言ですみません。

宮田先生

これからも薬学教育をより発展的なものにするためには有用な人材確保が必要だと思います。そのためには優秀でやる気のある学生さんに6年制薬学部に入学していただかなければなりません。まず薬学って面白いよということ、また、薬学だけじゃなくてサイエンスをすることの面白さを、まず子供たちに教えていくべきだと思います。やはり子供に興味を持っていただき、サイエンスをする人の人口を増やし、その中で薬学、医療系に興味を持つ人を一人でも多く増やしていく必要があると思います。薬学の面白さを、中学生や高校生に示すことが必要で、また、示せるような薬学にしておかなければならないと思っています。薬学ってものすごく範囲が広いので、薬を創るおもしろさ、臨床の現場で薬物治療に携わる面白さ、また、健康維持に関係する学問の面白さ等を、中学生や高校生に理解しやすい形で示す必要があると思います。薬学を今後どうするか、ちょうど6年制薬学教育が始まって10年余り経過したので、ちょっと立ち止まって考えていく時期なのかもしれません。薬剤師が医療の担い手となって活躍していることを社会に見えるように。私たち自身がこんなに社会に役立っていると言っても無意味であり、社会の人から薬剤師の先生には本当にいつも薬や病気について教えていただいてありがたいですと言っていただくことが重要ですね。そういう薬学にするためにはどうしたらいいかですが、大変大きな課題だと思います。

中西先生

薬学そのものが高校までにない科目です。高校までに習う化学物理数学の中でこれらを総合し必要だから出来たのが薬学だと思います。それを振り返って見ますといろんな分野と繋がるのは当たり前のことであり、薬学には広い知識がベースだということをもう一度認識することが大切だと思います。今、宮田先生がおっしゃったように、サイエンスの面白さを凝縮しているようなところがたくさんあります。ですから、いろいろな世界に入っていけるということから、薬学はとても興味深く発展性が十分期待できます。そしてそこの根っこに何があるかと言うと人間性だと思います。ですからそれを持ちつつこれからの社会を作っていくサイエンスのひとつではないかと思います。

上田先生

私の中で描いていたのとは違う方向になったりして、勉強になりました。本日は、いろんなお考えをお聞きできて楽しかったです。ありがとうございました。

中西先生
中西友子 先生
東京大学大学院農学生命科学研究科教授を経て、2019年より星薬科大学学長。理学博士。
山本先生
山本恵子 先生
昭和薬科大学教授、2018年より同大学長。薬学博士。
宮田先生
宮田興子 先生
神戸薬科大学教授、2019年より同大学長。薬学博士。
上田先生
上田昌史 先生
日本薬学会広報委員、神戸薬科大学教授。

(本座談会は2019年10月31日に収録しました。)