会頭メッセージ

薬学の教育・研究の国際的競争力の強化を目指して

日本薬学会 会頭 佐々木 茂貴

 2021年4月より日本薬学会会頭を拝命いたしました。近代日本の黎明期、明治13年(1880年)に長井長義初代会頭に始まる歴史ある本学会の舵取り役を担いますことは、身に余る光栄ではありますが、重い責任を感じています。どうか皆様のご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

 2020年は新型コロナウイルス感染症COVID-19の感染拡大により世界が一変しました。著名人、薬学関係者を含め多数の方が犠牲になりました。ここに、深く哀悼の意を表します。わが国でも2021年2月からワクチン接種が始まりましたが、COVID-19が収束し、いつもの日常が戻ってくることを願っています。

 日本薬学会は、わが国の薬に関する学術活動の中心的な役割を担っています。専門分野の異なる10部会、各地域の8支部会、16の常置委員会、二つの特別委員会および事務局が活動を支えています。3つの英文国際学術誌と薬学雑誌およびファルマシアの発行、FIP(国際薬学連合)やAFMC(アジア医薬化学連合)、およびドイツ、韓国、カナダの各薬学会との国際交流活動、日本学術会議などの国内学術団体との協働、長井記念研究奨励事業による若手育成など、幅広い支援活動を今後も活発に継続していきます。

 最近、わが国の研究力低下が問題視されています。薬学も例外ではなく、「日本の薬学教育・研究は世界の潮流に後れをとりつつあるのではないか」という危機感があります。すぐには解決の難しい課題ですが、解決に向けた一歩を踏み出したいと考えています。

 一つは研究の国際的競争力を高めるための「分野融合」です。新型コロナウイルスワクチンとして、人類史上初のmRNAワクチンが実用化され、感染拡大抑止の切り札として注目されています。このワクチンは、合成化学、生化学およびDDSなどの基礎薬学の分野融合によって創成されたことは、特筆すべきことです。薬学は基礎研究から医薬品の創成、医薬品の管理から薬物治療の管理、さらにはビッグデータの解析から疾患の機構解明へ、そして基礎研究へと循環する幅広い領域を含みます。流動的かつダイナミックに変化している世界の薬学界で競争力を発揮するには、これらの異分野間で分野融合を進め、一丸となった取り組みが、極めて重要と考えられます。

 分野融合は最新の医療技術の動向追跡にも有用です。また、解説記事を薬学会のホームぺージなどに公開すれば、「くすりの情報センター」としての役割を果たせますし、高校生などに対しては、創薬から医療につながる「薬学」の魅力を広く啓発する活動に繋がります。

 2006年に薬学部6年制がスタートし15年が経過しました。薬剤師の質向上の点での評価がある一方、医療における薬学の役割を維持する上で重大な問題が顕在化しています。基礎系と医療系を問わず、大学院博士課程への進学ならびに大学への就職が極めて少なく、次世代の人材を育成すべき大学教員数がかなり不足してしまうことが明らかになっています。これは、わが国の薬学の根幹を揺るがす深刻な問題ですので、関係機関と共同で対策を練っていきたいと考えています。

 最後にお願いがございます。薬学会事務局のある長井記念館は30年後には老朽化のため建て替えが必要で、そのため薬学会では資金の積み立てをしています。毎年6千万円以上の節約が必要と見積もられ、各種会議のオンライン化、ペーパーレス化や、学術誌やファルマシアの電子化を推進する予定です。経費削減とともに会員の皆様の利便性の向上にも努めてまいりますので、ご理解の程お願いいたします。

 2021年度の新体制では、岩渕好治教授(化学系薬学)と石井伊都子教授(医療薬科学)に副会頭としてご参画いただき、国際化と分野融合の動きを加速し薬学会を更に魅力的な学会に発展させる所存です。会員の皆様の温かいご支援とご協力をお願いいたします。